NISAの口座が激増
資産運用がもはやブーム・トレンドになりつつある昨今、NISAの口座を開設する人が激増しています。
日本証券業協会のデータによると、2021年度末時点のNISAの口座数は1,108万口座で、前年比+21.2%と、まさに激増と言って良いレベルで数を増やしています。
出典:NISA口座開設・利用状況調査結果 (平成27年9月30日現在)
またその内訳を見てみると、特につみたてNISAは全体の87.2%が投資未経験者であり、こちらも前年の80.5%から大きく割合を増やしています。
このことからも投資未経験者がこぞってNISAの口座を解説していることがわかります。
出典:NISA口座開設・利用状況調査結果 (平成27年9月30日現在)
SNSなどでもFP(ファイナンシャルプランナー)などが、NISAの口座開設を勧めたり、投資を促すような広告を頻繁に目にするようになり、投資未経験者がこぞってNISAに手を出しています。
「とりあえずNISAは始めて損はない」と考えている人もいるようですが、実はNISAには注意しなければいけないポイントがあります。
安易にNISAに手を出したことによって、本来得られたはずの利益が得られなかったり、必要以上に損をする可能性もあるのです。
NISAとは – 非課税のメリット –
まずはNISAについて基本的な情報からおさらいしていきましょう。
そもそも投資によって得た利益には税金がかかります。
100万円を投資して120万円になった場合、運用益である20万円に対して20.315%の税金が課されます。
つまりこのケースでは、実際には20万円から40,630円が引かれて、15万370円が手元に残る利益です。
ですが、この投資を一般口座ではなくNISAで運用した場合、投資で得た利益に税金がかかりません。
今回のケースで言えば、運用益20万円を丸々手にすることができます。
この「非課税」こそがNISAの口座を開設し、NISAで運用するメリットです。
「非課税」というメリットはわかりやすく誰もが飛びつくたくなる気持ちもわかります。
NISAの詳細
NISAについてもう少し詳しい情報も紹介しておきます。
現行(※2022年6月時点)のNISAには「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3つの種類があります。
いずれもNISA枠内での投資で得た利益が非課税になるのは一緒ですが、限度額(非課税枠)や保有期間が異なります。
NISA ※20歳以上 | ジュニアNISA ※20歳未満 |
||
一般NISA | つみたてNISA | ||
非課税保有期間 | 5年 | 20年 | 5年 |
年間非課税枠 | 120万円 | 40万円 | 80万円 |
投資可能商品 | 株式、投資信託、ETF、REIT 他 | 長期・積立・分散投資に適した一定の投資信託 | 株式、投資信託、ETF、REIT 他 |
買付方法 | 通常の買付・積立投資 | 積立投資のみ | 通常の買付・積立投資 |
備考 | 2023年1月以降は18歳から利用可能 | 2023年で終了 |
参考:NISAとは?:金融庁
また、現行のNISAのうちジュニアNISAは2023年に終了し、2024年からNISAの制度が改正されます。
つみたてNISAが基本的に変わりませんが、一般NISAはより積立・分散投資を促す観点で2階建ての制度に見直されます。
- 年間非課税枠:
(現行)120万円
(2024年以降)1階部分 20万円、2階部分102万円 - 投資可能商品:
(現行)株式、投資信託、ETF、REIT他
(2024年以降)1階部分:つみたてNISAと同じ、2階部分 現行と同じ
なぜNISAに殺到してしまうのか
なぜNISAはこれほどまでに人気なのでしょうか。
「非課税」というメリットはそんなにも重要なのでしょうか。
行動経済学によると、人間が最も大きな価値/損失を感じてしまうのは「確定した損失」です。
また、利益よりも損失の方が2倍以上深刻に捉えてしまうという特徴も併せてあります。
少し難しいので、具体的な例で考えてみましょう。
プロスペクト理論のグラフ
人間は利益や損失の金額が大きくなればなるほどその喜びが小さくなるという傾向があります。
100万円を運用して110万円(+10万円)にした時の喜びは105万円(+5万円)にした時の喜びの2倍にはなりません。
また一方で同じ金額の場合、損失のダメージは利益を得た時の喜びの2倍になります。
- 50:50の確率で100万円が111万円(+11万円)か90万円(−10万円)になる
くじを考えてみましょう。
期待値はプラスになりますが、多くの人にとって11万円を得られる喜びよりも、10万円損してしまうかもしれないダメージの方が大きく感じてしまうのです。
最後に人は「確定した損失」を何よりも嫌う傾向があります。
- 確実に支払う5万円
- 50%の確率で10万円を支払うが、50%の確率で支払いはゼロ
①②のどちらも、損失の期待値は5万円で同じですが、全体の64%が②を選択するというデータがあります。
人は「もしかしたら払わなくて良いかも」という可能性を非常に大きく捉えてしまうのです。
この
- 大きな利益/損失よりも利益/損失の「有無」が一番印象に強い
- 利益よりも損失を大きく捉えてしまう
- 「確定した損失」を何よりも回避する
という3つの心理が重なった結果、特に投資未経験者や初心者は「税金」や「手数料」に過敏になります。
「非課税」「ノーロード(手数料ゼロ)」の商品・制度は過大に評価されてしまいます。
NISAの要である「非課税」というメリットは、人の心理の中で最も魅力的に感じてしまうポイントなのです。
NISAの注意点 – 安易に手を出してはいけない理由 –
このように「非課税」というメリットは、必要以上に魅力的に感じてしまう大きな落とし穴です。
非課税を課題に評価し安易にNISAに手を出すと失敗する可能性は十分にあります。
損益通算ができない
投資の世界には「損益通算」という考え方があります。
例えば1,000万円を元手に投資を考えるとき
- A口座で500万円を運用して600万円(+100万円)
- B口座で500万円を運用して450万円(−50万円)
利益100万円ではなく、+100万円とー50万円を通算した50万円が課税対象になります。
NISAの口座と一般口座では、この損益通算ができません。NISAの損失を活用して一般口座の利益にかかる税金を軽減することはできません。
また、次のケースも考えてみましょう。
- 1年目:1,000万円を運用して900万円(-100万円)
- 2年目:900万円を運用して1,100万円に(+200万円)
2年目は運用で+200万円の利益が出ていますが、そもそも元を正すと1,000万円が1,100万円(+100万円)になったに過ぎません。
確定申告は年単位で行いますが、この場合も前年(1年目)の–100万円と+200万円を損益通算することができます。
ですが、NISAは保有期間が満期を迎えたタイミングで損失が「確定」してしまいます。
NISAで5年間運用し、1,000万円が900万円になってしまうと、その100万円の損失は今後通算して解消することができません。
900万円を1,000万円に戻したとしても、その100万円は課税されてしまいます。
出典:5年間非課税のNISA。デメリットとメリットを知って賢く利用しよう。 | 工学博士と学ぶ NISAの現実と長期投資の実践
つまり、NISAで運用する場合には必ず利益を出さなければいけないです。
そもそも投資できる商品が限定的
絶対的な利益が求められるNISAでの運用ですが、そもそもNISAの枠内で投資できる商品は制限があります。
例えば、ヘッジファンドのように高利回りの金融商品に投資することはできません。
絶対に利益を出さなければいけないNISAの活用ですが、そもそも利益を得るのが難しいのです。
正しい投資の考え方
NISAの「非課税」のように、わかりやすいメリットがある金融商品にはついつい安易に手を出してしまう人が多いのも理解できます。
「とりあえず始めておいて損はない」と考える人もいるかもしれませんが、きちんと制度を理解していないと思わぬ落とし穴にはまりかねません。
行動経済学でも明らかになっているように、人間は「非課税」や「手数料ゼロ」を課題に評価してしまう傾向があります。
ですが、そもそも投資を考える際には利益が期待できそう(=儲かりそう)な投資先を探すことを前提に考えなければいけません。
- 利益が期待できる投資先を探し出す
- 良い投資先を前提とした上で、得になる仕組みや制度を活用する
これから資産運用を検討している人は、わかりやすいメリットや仕組みに安易に飛びつくことなく、まずはより質の高い投資先を探すところから始めてみてください。