今回は「グローバル・フィンテック株式ファンド」について解説していきます。
成長が見込まれるテーマの一つとして挙げられる、フィンテック関連銘柄へ投資するのがグローバル・フィンテック株式ファンドになります。
ここでは、そんなグローバル・フィンテック株式ファンドについて、ファンドの特徴やパフォーマンス、評判や投資する際の注意点などを整理して解説していきます。
- グローバル・フィンテック株式ファンドは、世界のフィンテック関連株式に投資する投資信託
- 決算回数および為替ヘッジの有無によって4つのコースが存在
- 分配金のない年1回決算のコースがおすすめ
- パフォーマンスの悪化により評判にも変化
- フィンテック関連の成長性は今後も期待できる一方で、期間の定めのある本ファンドへの投資は慎重に検討する必要あり
グローバル・フィンテック株式ファンドの基本情報
ファンド基本情報<概要>
名称 | グローバル・フィンテック株式ファンド グローバル・フィンテック株式ファンド(年2回決算型) グローバル・フィンテック株式ファンド(為替ヘッジあり) グローバル・フィンテック株式ファンド(為替ヘッジあり・年2回決算型) |
委託会社 | 日興アセットマネジメント株式会社 |
投資対象資産 | 株式等 |
投資対象地域 | グローバル(日本を含む) |
投資形態 | ファミリーファンド |
為替ヘッジ | なし/あり ※為替ヘッジの有無はコースによって異なります |
参考:投資信託説明書(交付目論見書)|グローバル・フィンテック株式ファンド
グローバル・フィンテック株式ファンドは、「決算回数(年1回/年2回)」と「為替ヘッジのあり/なし」により、上記表のように4つのコースを選択することができます。
ただし、実際の投資戦略や投資スキーム自体は共通しているため、「グローバル・フィンテック株式ファンド」として見ていきましょう。
グローバル・フィンテック株式ファンドの特徴
グローバル・フィンテック株式ファンドの投資戦略
グローバル・フィンテック株式ファンドは、日本を含む世界(グローバル)におけるフィンテック関連企業の上場株式に投資することで信託財産の成長を目指す投資信託です。
フィンテック(Fintech)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、最新の情報技術を活用した「新たな金融サービス」のことをいいます。
フィンテックは、スマートフォンのアプリなどを通じた金融サービスを中心に急成長しており、その利便性の高さから、私たちの生活を一変させるイノベーションとして注目されています。
グローバル・フィンテック株式ファンドのスキーム(運用の仕組み)
グローバル・フィンテック株式ファンドの委託会社は日興アセットマネジメント株式会社です。ただし、具体的な株式の選定は、ARK社の助言を踏まえた上で行われます。
出典:世界経済 海外企業編 ARK Investment Management LLC | 医師の年金・節税対策や資産形成のことならexit.(イグジット)
ARK(アーク・インベストメント・マネジメント・エルエルシー)は、「破壊的イノベーション」への投資に特化した運用会社です。米国に拠点を置き、アナリストの多くがテクノロジー企業などの出身で構成されています。
2017年8月、グローバル・フィンテック株式ファンドの委託会社でもある日興アセットマネジメントは、ARKに一部出資を決定しました。ARKは日興アセットマネジメントの戦略的パートナーとなり、共同して新たな投資ソリューションの開発などで連携しています。
また、グローバル・フィンテック株式ファンドは「ファミリーファンド方式」を採用しており、「グローバル・フィンテック株式マザーファンド」というマザーファンドを通じて世界のフィンテック関連株式に投資します。
参考:投資信託説明書(交付目論見書)|グローバル・フィンテック株式ファンド
ファミリーファンドとは、投資者が投資するファンドが株式などへ直接投資するのではなく、マザーファンド(親投資信託ともいいます)へ投資し、そのマザーファンドが株式等へ投資するスキームのことをいいます。
本記事で解説するグローバル・フィンテック株式ファンドの場合でみると、投資者が購入するフィンテックファンド(前述の4コースいずれも)が、グローバル・フィンテック株式マザーファンドへ投資し、そのマザーファンドが株式等へ投資するかたちとなっています。
グローバル・フィンテック株式ファンドのポイント – 4つのコース-
グローバル・フィンテック株式ファンドは、「決算回数(年1回/年2回)」と「為替ヘッジのあり/なし」により、前述のように4つのコースがあります。
いずれものコースも同一のマザーファンドに投資するという点では同じですが、このコースの違いによってリターンが変わってくるので注意が必要です。
決算回数の違い(年1回/年2回)について
グローバル・フィンテック株式ファンドには、年間あたりの決算回数が1回のコースと2回のコースがあります。
※決算回数が年2回のコースは、ファンド名に「年2回決算型」と明記されています。一方、年1回のコースは、ファンド名に「年1回決算型」のような表記は無い点に留意する必要があります。
年2回決算型のコースでは、決算のタイミングで基準価額が10,000円の水準を超えている場合、積極的に分配金が支払われることとされています。実際に過去実績を確認すると、実際に分配金が支払われていることがわかります。
出典:交付運用報告書|グローバル・フィンテック株式ファンド(年2回決算型)
一方、年1回決算型のコースでは、基準価額の水準や市況動向を勘案して委託会社が分配金の支払いを決定するとされていますが、過去実績において分配金は支払われていません。
分配金の支払実績だけみると、実際に分配金が支払われている年2回決算型の方がお得なようにも見えます。
しかし、分配金とはそもそも投資者が投資しているファンドの純資産の中から支払われるものであり、分配金が支払われると、その金額相当分だけ基準価額が下がることとなります。
実際、分配金として純資産の一部を切り崩しているため、年1回決算型に比べ、年2回決算型の方が基準価格を下げています。
【グローバル・フィンテック株式ファンド(年1回決算型)】
参考:グローバル・フィンテック株式ファンド|日興アセットマネジメント(基準価格推移)
【グローバル・フィンテック株式ファンド(年2回決算型)】
参考:グローバル・フィンテック株式ファンド(年2回決算型)|日興アセットマネジメント(基準価格推移)
投資信託を購入する方の目的や状況にもよりますが、基本的に投資・資産運用とは、投資によって得た利益を運用に少しずつ積み増していくことで、雪だるま式に資産を増やすことができる「複利」で運用することが重要となります。
得られた分配金を再投資してはどうかという意見もあるかとは思いますが、あらかじめ分配金が発生しないファンドの方へ投資すれば問題ないですし、そもそも分配金が投資者へ支払われれば所定の税金が引かれてしまいますので、実質的には損をしてしまうという見方もできます。
投資信託を購入する方の目的や状況にもよりますが、グローバル・フィンテック株式ファンドについては、年1回決算型の方がおすすめできるといえるでしょう。
為替ヘッジのあり/なしについて
為替ヘッジとは外国の株式などへ投資する際に、為替変動の影響を軽減する仕組みのことです。
一般的に、「為替ヘッジあり」は外国の株式や債券などへ投資をするものの、極力為替変動のリスクを抑えながら運用をしたい人に向いており、「為替ヘッジなし」は外国の株式や債券などの値上がりだけでなく、為替変動による収益も併せて享受したいという方に向いているといえます。
「為替ヘッジあり」の投資信託では、為替の円高進行による損失を避けられるメリットがあります。将来的な円高進行の可能性があり、資産が目減りすることを避けたいと考える場合は、「為替ヘッジあり」の投資信託を選ぶ方法もあります。
しかし、為替による価格の変動を完全に回避することはできませんし、為替ヘッジを行うために一定の費用が掛かったり、円安となった場合に利益を受けられないといった様に、メリットを手放す可能性もあります。
なお、「為替ヘッジ」を行う際には、上述のように一定の費用(コスト)がかかります。
為替ヘッジのコストは、一般的にはその通貨間の短期金利の差が、為替ヘッジコストを決める大きな要因となります。
例えば日本の投資家が米ドル建ての資産を購入する場合、ヘッジコストは日本とアメリカの金利差によって決まります。※通貨の需給状況なども為替ヘッジコストに影響するため、当該通貨間の金利差が一定であっても為替ヘッジコストが変動する場合もあります。
各国の短期金利は、それぞれの国の金融政策によって左右されます。近年では、アメリカが金利の引き上げ政策を採る一方で、日本においては低金利政策が維持されているため、二国間の金利差は広がり、為替ヘッジのコストは上昇する傾向にありました。
為替ヘッジの有無については、昨今の為替ヘッジコストの上昇を踏まえて、「為替ヘッジなし」を選択するという考え方もあります。
ただし、日本および米国の金融政策の動向を見ると、米国で利上げ停止観測が浮上する一方、日本においては日銀総裁の交代に伴い、低金利政策の解除を見る向きもあります。仮にこれらの前提に立って考えると、為替相場は円高ドル安の圧力がかかる流れになります。そうなった場合、為替ヘッジをかけていないと資産が目減りする可能性があるため、慎重な検討が必要になります。
グローバル・フィンテック株式ファンドに投資するメリット・デメリット
メリット
グローバル・フィンテック株式ファンドに投資するメリットの1つは、イノベーション関連企業への投資を得意とするARK社が、運用に携わっている点です。
「フィンテック」という言葉自体は耳にする機会が多く、先進的なイメージを持たれている方も少なくないでしょう。
しかし、個別の企業の事業面や財務面等を詳細に分析し、投資まで行うことは個人投資家のレベルでは難しいと言わざるを得ません。この点について、蓄積されたノウハウを持つARK社が前述のような観点から銘柄を選定し、運用してくれるのがこのグローバル・フィンテック・株式ファンドになります。
参考:投資信託説明書(交付目論見書)|グローバル・フィンテック株式ファンド
また、日本の個人投資家であれば、情報に触れる頻度や情報へのアクセス面などから、どうしても国内株式、その中でも評判の良さそうな銘柄に目線がいきがちですが、グローバル・フィンテック株式ファンドは世界のフィンテック関連銘柄を対象としているため、より広い視点から投資銘柄が選ばれることとなります。
参考:マンスリーレポート(2023年4月28日現在)|グローバル・フィンテック株式ファンド
たった数万円でこれだけ多くの銘柄に幅広く分散投資できるのは、グローバル・フィンテック株式ファンドに投資する大きなメリットです。
デメリット
一方で、デメリットとしてテーマ株特有の値動きの大きさに注意する必要があります。
テーマ株とは、まさに「フィンテック銘柄」のように時流に乗っていたり、これからの成長が期待されているテーマの観点から投資していくスタイルになります。
このテーマ株投資は、成長期待等を背景に大きな値上がりが見込める半面、ブームの過ぎ去りやそのテーマに悪影響を与えるような材料が出てくれば、大きく値下がりする可能性も同時に考えられるため、注意が必要です。
一方、主要な指数に連動するような投資スタイルを「インデックス投資」と呼びます。
また、信託報酬が高めに設定されている点もデメリットの1つです。
信託報酬とは、投資信託を管理・運用していくために、投資者が投資信託を保有している間は常に払い続ける費用のことです。
この信託報酬について、前述のインデックス投資では主要な指数に連動するように銘柄を選定すればよく(つまり手間があまりかからないので)、信託報酬の水準は低い傾向にあります。
一方、テーマ株投資では、個別の銘柄の調査・分析などの手間がかかるため信託報酬は高くなりがちです。
ちなみに、グローバル・フィンテック株式ファンドの信託報酬は1.925%(2022年12月決算期時点)であり、インデックス型の投資スタイルを含む一般的な株式投資信託の平均信託報酬約1.16%(2022年末時点)と比べると、やはり高めの水準とみることができます。
参考:金融庁「国内運用会社の運用パフォーマンスを示す代表的な指標(KPI)の測定と国内公募投信についての諸論点に関する分析」の公表について
グローバル・フィンテック株式ファンドの評判・実績など
グローバル・フィンテック株式ファンドの評判
グローバル・フィンテック株式ファンドの評判を確認すると、2021年末を境に評判の傾向が変化していることがわかります。
2021年末頃までは、投資信託のパフォーマンスに好意的な声が比較的多く見られました。一方、2021年末以降は徐々に芳しくない評判が増え始めます。
この要因としては、基準価額(投資信託のパフォーマンス)の大きな変化が影響していると考えられます。評判が変化することとなった要因について、実際の基準価額の推移や、今後の見通しなどを見ていきましょう。
グローバル・フィンテック株式ファンドの実績
最新の決算時点における1年間(2021年12月8日〜2022年12月7日)のパフォーマンスをみると以下のようになっており、1年間で50%以上も下落しています。
参考:運用報告書(全体版)|グローバル・フィンテック株式ファンド
続いて、もう少し長い期間である最近5年間(2017年12月~2022年12月)のパフォーマンスを見てみます。
2020年に入ってから基準価額は大きく上昇し、2017年から比べると約3倍の成長を見せました。この時期までの評判は好意的な内容が少なくありませんでした。
一方で、2021年末頃から基準価額は下落しはじめ、2022年の最新の決算時点では、基準価額は2017年とほぼ同水準まで落ち込んでいます。
このようなパフォーマンスの変化をみると、2021年末頃を境に評判の良し悪しが変化したのも頷けます。
この基準価額の落ち込みの背景には、欧米を中心とする金融引き締めの進展や、ウクライナ情勢、対ロシア制裁に伴うエネルギー価格の急騰などをめぐり投資家のリスク回避姿勢が強まったことなどが挙げられます。
加えて、2023年に入ってからは、新興企業などに融資を行う米国の中堅銀行が経営破綻するなど懸念材料も出てきています。
グローバル・フィンテック株式ファンドの今後の見通し
では、グローバル・フィンテック株式ファンドの今後の見通しはどうでしょうか。
この点について、銘柄選択等の運用を担うARK社は、グローバル・フィンテック株式ファンドのパフォーマンス低下について、以下のような説明をしています。
ARK社によれば、成長企業の初期段階においては、成長のための支出が必要かつ重要であるため、一時的に企業業績が悪い「赤字銘柄」となっていても、その要因を分析し将来的な成長が見込めるようであれば、引き続き投資を行うとしています。
グローバル・フィンテック株式ファンドにおける投資銘柄においては、長期的に成長が見込めるというARK社の見解は維持しており、足元のパフォーマンスが悪くても長期的な視野で投資を行うという戦略を採っています。
このことから、足元のパフォーマンス悪化について、ARK社としては許容範囲内であり、投資銘柄の中長期的な成長に伴ってパフォーマンスは回復していくとみることもできます。
まとめ – グローバル・フィンテック株式ファンドはおすすめか –
ここまで見てきたグローバル・フィンテック株式ファンドについて、もう一度おさらいします。
- 世界のフィンテック関連銘柄に投資する投資信託
- 決算回数および為替ヘッジの有無によって4つのコースが存在
- 分配金のない年1回決算のコースがおすすめ
- 為替ヘッジの選択には日米の金融政策の方向性に注意
- 直近のパフォーマンスは下落傾向(直近1年間でマイナス50%超)し、評判も悪化気味
- フィンテック関連の成長性は今後も期待できる一方で、期間の定めのある本ファンドへの投資は慎重に検討する必要あり
ここまで見てきたように、グローバル・フィンテック株式ファンドはテーマ型の投資スタイルを採る投資信託になります。
ですので、詳しくは知らないものの「フィンテック(Fintech)」という響きだけで何となく評判が良さそうという印象を持っている方や、値動きの大きさ(特に大きく下落する可能性)などのリスクを避けたいという方にはお勧めできません。
一方、フィンテック関連に明るく、関連銘柄に投資をしてみたいが、個人レベルで海外も含めた個別銘柄に投資をするのは手間がかかると思っている方は投資を検討してみるのも一つの手かもしれません。
ただし、グローバル・フィンテック株式ファンドは、2026年12月が信託終了日として設定されており、パフォーマンスが回復する前に信託終了(投資が終了し、投資者にその時点の投資金額が返還されること)する可能性があります。
また、元々信託報酬の水準が高めであることなどにも注意して投資するか否かの判断をする必要があります。