ヘッジファンドの手数料とパフォーマンス
金融・経済などについて、透明性の高い情報を発信するとして、世界的に権威のあるアメリカの情報会社Bloombergに衝撃的な記事が掲載されました。
世界的な投資銀行であるBarclays(本社イギリス)のキャピタル・ソリューションズ・グループによる最近の調査によると、手数料の高いヘッジファンドの方が長期的に高いリターンを得られるとのことです。
これまで、ヘッジファンドは専門性があり高いパフォーマンスが期待できる一方で、その手数料の高さが疑問視される傾向にありましたが、今回の290のヘッジファンドを対象にした調査によって、この議論に終止符が打たれたことになります。
今回の調査でとても興味深かったのは、手数料は高ければ高いほどリターンも高くなる傾向があり、ファンドのコストを顧客が負担するか否かで、リターンに大きな差が出るという点にあります。
参考:ヘッジファンド、手数料高いほど高成績の傾向-バークレイズ調査 – Bloomberg
顧客(出資者)が運用コストやファンドマネージャの報酬を全て負担する「Full pass-through」が最も高いですが、部分的に負担する「Partial pass-through」も次いで高く(この2つの差は小さい)、全く負担しない「No pass-through」が最も低い結果となっています。
つまり、部分的でもよいので、出資者(投資家)がファンドのコストを負担する仕組みかどうかが、ファンドの成績を大きく左右するのです。
では、
- なぜこのような結果になったのか
- 私たち投資家にとってどのようなポイントが重要なのか
について、Bloombergの記事も参考にしつつ考察していきたいと思います。
[徹底考察]なぜ手数料の高いファンドの方が好成績を残せるのか
ではなぜこのように「手数料の高いファンドの方が好成績を残せる」のでしょうか。
その背景・原因を考察していきたいと思います。
人材(ファンドマネージャ)のレベルが高い
ファンドの手数料(特にファンドマネージャの成功報酬)が高くなることで、最も影響が大きいのがファンドマネージャです。
仕事(運用)の成果に応じて、平均以上の報酬が得られるのであれば、より優秀な人材を登用することができます。
ヘッジファンドの運用成績を最も左右するのはファンドマネージャの手腕であり、バークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway Inc.)のウォーレン・バフェット(Warren Edward Buffett)や、ブリッジウォーター・アソシエイツ(Bridgewater Associates)のレイ・ダリオ(Ray Dalio)ように、10兆円を超えるような金額を運用する世界的なファンドでさえ、会社組織ではなくファンドマネージャ個人がフィーチャーされます。
それほどまでに優秀なファンドマネージャの登用は、ヘッジファンドの成果を大きく左右します。
結論から言えば、ヘッジファンドはファンドマネージャが交代するタイミングで全くの別物になってしまうと言っても過言ではありません。
そのため、ファンド選びの際には、ファンドマネージャの年齢やキャリアについても確認し、何年ほど事業を継続し運用を続ける意向があるかを確認することも重要です。
運用のモチベーションが高くなる
成果報酬の割合が高く、高い報酬を手にできるヘッジファンドであれば、ファンドマネージャのモチベーションも変わってきます。
自身の運用の成果によって報酬が大きく左右され「運用で大きなリターンを得るほど、自身の報酬も高くなる」のであれば、リターンを最大化しようと全力を尽くすはずです。
反対に、「成果報酬が一切ない=運用で成果を上げても個人の報酬が変わらない」投資信託のような手数料体系の場合、運用する人にリターンを生むメリットがありません。
成果に対して適切な報酬(インセンティブ)が払われなければ、真っ当な仕事が期待できるわけもなく、そこで運用する人材もたかが知れています。
※実際に投資信託のパフォーマンスは、マーケット平均(インデックス)と比較しても低いことで有名です。
情報収集や調査・分析などにコストを費やせる
ファンドマネージャ個人にばかり注目してきましたが、ファンドという組織にとってもメリットはあります。
ヘッジファンドが十分な報酬(手数料)を得ることで、データ収集や調査・分析の質が向上するのです。
特に株式や不動産投資において、綿密な調査や情報収集・分析などは成否を分ける非常に重要なファクターです。
資金に余裕があれば、そこにコストを費やすことでこれらの作業(プロセス)がより高度で専門的なものになり、運用の質が上がります。
もちろん、それを活かすも殺すもファンドマネージャの裁量次第ですが。
情報収集にコストを費やすというと「情報を金で買う」という少しダーティーな印象を持つ人がいるかもしれませんがそうではありません。
例えば、3,800社以上にもなる上場企業全てのデータを一気に精査し有力な投資先の候補をピックアップするためには、専門のツールが必要になりますが、優秀なヘッジファンドはそういったツールを自社で開発し運用したりします(もし資金や人材に余裕がなく1社ずつ手作業で分析する場合とでは効率が違います)。
また、投資先の会社の専門的な技術やノウハウについて、専門家を雇って分析することもできますし、必要に応じて現地に赴いて調査することもできます。
このように様々な観点から資金に余裕があることは、投資の効率性を上げ、より高度で深い調査や分析の助けになります。
投資家にとってメリットはあるか?
このように様々な観点から手数料(報酬)の高いヘッジファンドが、より高いリターンを生み出すということがわかりました。
ですが、それでもなお「やっぱり高い手数料を払いたくない」という人に以下の3つのファンドを比べてもらいたいと思います。
信託報酬 | 成果報酬 | パフォーマンス | |
投資信託 | 1% | ゼロ | 3% |
ヘッジファンド(一般) | 2% | 20% | 5% |
ヘッジファンド(高コスト) | 5% | 50% | 10% |
- (投資信託)信託:1%, 成果:ゼロ. パフォーマンス:3%
- (ヘッジファンド一般)信託:2%, 成果:20%. パフォーマンス:5%
- (ヘッジファンド高コスト)信託:5%, 成果:50%. パフォーマンス:10%
※信託:信託報酬(預かり資産にかかる手数料)
成果:成果報酬(運用益にかかる手数料)
パフォーマンス:手数料引前のファンドの運用成果
この3つのファンドを比較したときに、高コストのヘッジファンドは①投資信託と比較して実に5倍、一般的なヘッジファンドと比較しても2.5倍もの手数料を要求しています。
一方で、肝心のパフォーマンスは2~3倍と、手数料ほど伸びていません。
この数字を見て「やっぱりコストが高くてもそれに見合った成果は出ないんだ」と思ってしまった方は早計です。
では、これらのファンドに投資したときのリターン(=私たちの手元の利回り)をぞれぞれ算出してみましょう。
リターン=(パフォーマンス – 信託報酬)×(100% – 成果報酬)
で求めます。
- 投資信託:(3% – 1%)×(100% – 0%)= 2%
- ヘッジファンド(一般):(5% – 2%)×(100% – 20%)= 2.4%
- ヘッジファンド(高コスト):(10% – 5%)×(100% – 50%)= 2.5%
信託報酬 | 成果報酬 | パフォーマンス | リターン | |
投資信託 | 1% | ゼロ | 3% | 2.0% |
ヘッジファンド(一般) | 2% | 20% | 5% | 2.4% |
ヘッジファンド(高コスト) | 5% | 50% | 10% | 2.5% |
このように、それぞれのリターンを計算してみると、最も手数料が高い(しかもダントツで)ヘッジファンドに投資した場合が、最もリターンが高くなります。
しかも、手数料が5倍に対して、パフォーマンスが3倍程度にしかならなくとも、より高いパフォーマンスが期待できるファンドの方がリターンが高くなるのです。
より高い成果が期待できるのであれば、相応のコストを支払うことはむしろ適切なのです。
まとめ
ここまでの内容をまとめると以下のようになります。
■ 手数料の高いヘッジファンドの方がより高いリターンを記録している。
■ リターンが高くなる理由として以下などが考えられる。
- 優秀なファンドマネージャを登用できる
- 運用のモチベーションも高くなる
- 調査や分析など、運用の質も上がる
■ 手数料が高くてもパフォーマンスが良ければ投資家のリターンも増える。
手数料の高いヘッジファンドの方がより高い成果が期待できることが明らかになった以上、ヘッジファンドを選ぶ際には手数料を特に気にすることなく、ファンドの運用方針や投資手法、出資の条件を優先することが重要だとわかります。
手数料が高くてもそれ以上のリターンを投資家に還元できるからこそ、ヘッジファンドは事業を存続することができるのであり、ある程度の期間事業が続いているファンドであれば、手数料の高さはそのファンドのパフォーマンスの高さの証明とも考えられるかもしれません。