アクティビストファンドとは
アクティビストファンドとは投資先に対して積極的に活動(アクション)するファンドの総称のことです。
活動内容は様々なものがあり、配当のUPの株主提案から、経営陣の交代要求・買収といったものまで多岐にわたります。
いわゆるヘッジファンドは投資、つまり株の保有=株主となることで利益を得ますが、その中でも単に株式市場での売買に留まらず、積極的に活動するファンドがアクティビストファンドです。
このアクティビストファンドは、一般的なヘッジファンド(全体)と比較して、パフォーマンスが高いという特徴があります。
そんなアクティビストファンドについて、実際どんなものなのか解説していきたいと思います。
※尚、本記事の作成にあたっては、中央経済社出版の『アクティビストの衝撃 -変革を迫る投資家の影響力-』著菊池正俊を参考にしております。
アクティビストの評判について
本題に入る前に、アクティビストファンドのイメージについて軽く触れておきたいと思います。
アクティビストに対して、皆さんはどんなイメージを持っていますか?
アメリカをはじめ、世界の金融市場では、アクティビストファンドは非常に優れた存在として名を馳せています。
実際「ファンドで働いている」といえば、一目置かれるはずです。
一方で、日本ではアクティビストファンドのイメージはあまり良くないのではないでしょうか。
もちろん、日本でも金融に携わる人は「賢い」「優秀」といったイメージがあるかもしれませんが、一方で「うさんくさい」「嫌な仕事」と感じる人もいるかもしれません。
なぜこれほどまでに日本でのファンド(特にアクティビスト)のイメージは悪くなってしまったのでしょうか。
これには2000年代前半に起こったいくつかの事件や一部のファンドの悪行が大きく関係しています。
なぜアクティビストファンドの評判が悪いのか
日本でアクティビストファンドの話をするときに、真っ先に浮かぶのが「村上ファンド」だという人は多いはずです。
村上世彰が率いた村上ファンドは、ライブドア事件によってその評判を落としてしまいます。
2006年に、ホリエモンこと堀江貴文が率いたライブドアが、ニッポン放送を買収しようとした一連の騒動。
ニッポン放送株の大量取得などで世間を賑わせたが、インサイダー取引やライブドアの粉飾決算などが発覚・両名とも起訴されるするなどした。
また、2007年にアメリカのスティール・パートナーズ社が、日本のブルドックソースを買収しようとした際に「ソース」の原材料が何かもわからずに買収しようとしていたことが発覚し、
アクティブファンドは単に金儲けしか考えていない「守銭奴」というイメージがついてしまったのかもしれません。
このように、2000年代初頭に目立ったいくつかのファンドのイメージが非常に悪く、アクティビストファンド=悪者との認識が広まってしまいました。
また、当時アクティビストファンドの動きとして「敵対的TOB」が多かったこともあり、経営陣との対立なども目立っていました。
アクティビストファンドの実態 – 投資先への影響 –
アクティビストファンドは本当に悪か
このように悪者のイメージが広まってしまったアクティビストファンドですが、実際のところはどうなのでしょうか。
アクティビストファンドが悪者とされてしまっている原因として
自分たちの利益だけを追求している
▶︎既存の経営陣や社員のことなどは考えていない
▶︎短期的に利益を吸い上げ長期のことは考えない(未来の利益を吸い尽くす)
と考えてしまっている人が多いのかもしれません。
ですが、実際のところアクティビストファンドが長期的に経営に悪い影響を与えているというデータはなく、特に昨今のファンドの多くは経営陣と有効的な関係を築き、中長期的な視点で投資するケースがほとんどです。
これはSDGsやESG投資の影響も考えられます。
目先の利益を追うよりも、中長期的な視点に立って投資することの方が価値が高いのです。
また、実際に経済的なリターンもその方が高くなるというデータもでています。
アクティビストの存在意義
アクティビストファンドは、単にパフォーマンスが高く経営に関与するだけの存在ではありません。
アクティビストファンドこそ、日本経済を根本から改善する大きな役割を担っているといっても過言ではありません。
日本経済は長らく冷え込んでおり、「消えた20年、消えた30年」と言われるほどに長い停滞状態にあります。
インフレは進み、円安まで加速しているにもかかわらず、賃金は上がらず私たちの生活は年々厳しくなっています。
この日本経済停滞の大きな要因の一つと考えられているのが「日本企業による現預金の貯め込み」です。
麻生太郎財務相や村上世彰なども度々批判するように、日本企業の多くは、資本コストに対する意識が低く、設備投資や賃上げ・株主還元といったことにほとんど資金を回しません。
結果、市場に流通する日本円の量が減少し、経済が停滞しているのです。
アクティビストファンドの様々な活動は、単に投資活動としての利益を追求するだけではなく、投資対象となる企業のコーポレートガバナンスやバランスシートを改善することが期待されます。
アクティビストファンドが活躍し、多くの日本企業の資本効率が改善することで、日本経済が回復することが期待されています。
アクティビストファンドの投資のやり方
それではアクティビストファンドの投資について具体的に見ていきましょう。
アクティビストファンドは、投資先の企業に対して積極的に働きかけるファンドですが、投資先の候補となる企業は何でもいいわけではありません。
アクティビストファンドが主に投資対象とする企業には以下のような特徴があります。
- 本質的な価値に対して割安である
- 利益率(ROA)が高い
- 企業経営に難があり、アクティビストの介入によって改善の余地がある
大前提として、元々割高な株や経営が順調で介入(改善)の余地がないところには投資しません。
そして、アクティビストとしての具体的な「行動」ですが、基本的には株主としての権利を行使する=株主提案するのが一般的です。
提案内容としては以下のようなものが挙げられます。
※①が最もソフトで数字が大きくなるにつれて、経営陣との摩擦も大きくなりがちです。
- キャッシュリッチ企業に株主還元を求める(配当のUP、自社株買いなど)
- 政策保有株の売却を求める
- 親子上場の解消を求める
- 事業のスピンオフを求める
- 経営者交代や社外取締役の選任を求める
- ROEなどを目標に掲げる株主重視経営を求める
- 買収防衛策の廃止
など
これらの提案を通じて、経営陣に働きかけ、ガバナンスやバランスシート(財務)の改善を行います。
経営者の交代や事業のスピンオフ、経営方針の改革などは、当然現行の経営者からの反発や抵抗を受けるでしょう。
アクティビストファンドというと、こういった提案ばかりをしているものと思っている人もいるかもしれません。
ですが、実際には経営者にとっても利益になるような提案をすることも珍しくありません。
例えば、①の配当のUPはそのまま株主にとって利益になります
また、割安な会社が自社株買いをすれば株価の上昇が期待できますし、親子上場の解消や政策保有株の売却も、資本効率を改善し株価が上がることが期待できます。遊休資産の売却なども資産の有効活用につながります。
中小企業の多くは、経営者が大量に株を保有している(一族経営などの場合筆頭株主のケースも多い)ので、株価が上がることは経営者にとっても大きな利益になります。
このように、企業経営に亀裂を入れずとも、会計や財務の観点からヘッジファンドが企業の価値向上に寄与することは可能なのです。
アクティビストファンドが強い理由
このような投資活動を行うアクティビストファンドは、大前提として高いパフォーマンスが期待できるヘッジファンドの中でもさらによい成績を残しています。
ですが、改めて考えてみればアクティビストファンドが良い成績を残しているのは当然でしょう。
そもそもヘッジファンドは、一般の投資家とは比較にならないレベルで精緻で専門的な角度から企業や株価を分析・評価しています。
そうして厳選された優良な銘柄に投資するヘッジファンドが、一般の投資家を大きく上回るパフォーマンスを出すのは当然です。
一般的なヘッジファンドのパフォーマンスは年10〜15%程度、投資家のリターンで5~10%程度と言われています。
そんな銘柄を厳選できるヘッジファンドが、さらに利益を最大化すべく投資先に働きかけるのです。
個人投資家は、どんなに頑張って良い銘柄を見つけても、あとは株価が上がるまで祈って待つしかありません。
株主総会に出席することもできますが、少額の株主の意見など笑顔で無視されて終わりです。
ですが、アクティビストファンドは、自ら厳選した銘柄(企業)に対して、ただ指を加えて待つのではなく、自分から働きかけて株価を上げにいけるのです。
まとめ – アクティビストの本質 –
ここまで見てきたアクティビスをファンドについての内容をまとめると以下のようになります。
- アクティビストファンドとは、投資先の企業に対して働きかける(アクションする)ヘッジファンドのこと。
- 日本ではイメージが良くない場合もあるが、実際には投資先の企業にとっても有益
>> アクティビストが投資先の企業に悪影響を与えるということはない - 主に割安でキャッシュリッチな企業に投資し、経営改善を通じて株主の利益を最大化する
- 経営陣と敵対することもあるが、多くは有効に会社・株主双方の利益を追求する
- 基本的にパフォーマンスが高いヘッジファンドの中でも、さらに成績が良い
- 日本企業の資本効率を改善するという点で、日本経済全体の視点で見ても有意義な存在
このように魅力の多いアクティビストファンドですが、専門的な知識はもちろん、これを模倣するためには、大株主になるための圧倒的な資金力が必要です。
最低でも数十億〜数百億円程度の資金がなければ、アクティビストとして会社に働きかけることはできません。
もちろん個人でそれをマネするのは不可能なので、もし興味があるのであれば、アクティビストファンドに投資して、間接的にその投資リターンを得る方法が現実的でしょう。
様々なアクティビストファンドの紹介や解説、比較記事なども出していく予定なので、ぜひ参考にしてみてください。