退職金の運用について
老後に必要な資金
退職金としてまとまったお金を手にしたときに、それをどうするかは老後を左右する非常に大きな問題です。
一昔前のように「退職後=老後、余暇」として、のんびり過ごすわけにはいきません。
仮に60歳で退職して、平均寿命(男性:81歳、女性:88歳)まで生きたとすると、老後の時間は20年以上あり、この時間を余裕を持って過ごすには十分な資産が必要になります。
公益財団法人の生命文化センターの調査によると、夫婦2人で老後に安定した生活を送るためには、食料や光熱・水道代、保健医療費、交通費などで月約22.4万円。それに税金や社会保険料などで月3.1万円が加わり、月に約25.5万円が必要になります。
一般に60歳で退職し、65歳から年金を受け取る場合、最初の5年間はこの月25.5万円=年306万円、つまり5年で1,530万円の支出が必要になるのです。
また、65歳から月12万円の年金を受給したとしても、毎月約13.5万円=年156万円の支出が必要です。
仮に85歳まで生活したとすると、
- 60〜65歳:306万×5=1,530万
- 65〜85歳:156万×20=3,120万
の合計4,650万円が必要になるのです。
退職時に既に数千万〜1億円近い貯蓄があるならば話は別ですが、子育てや住宅ローンの返済などで、そこまで十分な貯蓄が大変だった人も少なくないはずです。
この不足分を補うためにも、退職金を上手く活用して資産運用することが、安心して老後を過ごすために重要なのです。
貯蓄ではなく積極的な運用が絶対に必要な理由
とは言っても「投資は怖い」と考えている人もいるでしょう。
確かに一昔前までは積極的な投資は必要ありませんでした。
バブル期と言われた1980年代後半から1990年頃の銀行の預金金利は6%以上もあり、株や不動産などに積極的に投資をしなくても十分な運用ができていたのです。
ですが、現在のメガバンクの預金金利は0.002%なので、100万円預けていても1年で2円、10年で200円しか得ることができません。
- 運用=株などのリスクがあるもの
- 貯蓄=銀行に預けてリスクがないもの
と考える人もいるかもしれませんが、銀行にお金を預ける預金も広い意味では資産運用です。
一方で、物価は少しずつ上がり続けています。
最近は円安の影響も大きく、物価が上がっている(インフレ)を日常的に感じている人も多いでしょう。
今後「年2%」で物価が上がり続けたとすると、今100万円で買えるものは翌年には102万円、10年後には約122万円必要になります。
これが仮に年5%で運用できれば100万円は1年後には105万円、10年後には163万円にすることができます。
翌年 | 10年後 | 20年後 | ||
インフレ (年2%) |
100万円 | 102万円 | 122万円 | 148万円 |
預金 (年0.002%) |
100万20円 | 100万200円 | 100万400円 | |
預金 ※バブル (年6%) |
106万円 | 179万円 | 321万円 | |
運用 (年5%) |
105万円 | 163万円 | 265万円 | |
運用 (年7%) |
107万円 | 197万円 | 387万円 |
今や投資は、ギャンブルでも夢を見て賭けるものでもなく、全ての人がきちんと取り組まなければいけない人生の課題です。
安心して老後を過ごすためにも、資産運用についてきちんと考える必要があります。
退職金の相場と税金
厚生労働省のデータによると、令和3年の退職金の平均額は、大企業の場合大卒で2,230万円、高卒で2,017万円です。また、東京都産業労働局によると、令和2年の退職金平均額は、中小企業でも大卒で1,118万円、高卒で1,031万円です。
大企業 | 中小企業 | |
大学卒 | 2,230万4,000円 | 1,118万9,000円 |
高校卒 | 2,017万6,000円 | 1,031万4,000円 |
参考:退職金の相場はどれくらい?大企業・中小企業、業種、勤続年数による違いも解説|りそなグループ
つまり、最低でも1,000万円、多い人の場合2,000〜3,000万円程度のお金が一気に手元に来るのが退職金です。
また退職金には「退職金所得控除」という特別な計算があり、税金の面でも優遇されます。
仮に年収2,000万円の場合、所得税と住民税を合わせて500万円以上も引かれ、社会保険料も引くと手取りは1,200万円程度にしかなりません。
しかし、退職金の場合は、特別な所得控除によって勤続30年で一般退職の場合約1,960万円が手元に残ります。
退職金の課税対象部分は「(退職金総額ー退職金所得控除)÷ 2」で決定されます。
退職金所得控除額は
- 勤続年数が20年以下の場合:勤続年数×40万円 ※最低が80万円
- 勤続年数が20年超の場合:800万円+(勤続年数ー20年)×70万円
なので、勤続年数30年の場合の控除額は
- 800万円+(30ー20)×70万円=1,500万円
です。
この1,500万円を支給額の2,000万円から引いて2で割った250万円が退職金の課税対象部分になります。
所得税については以下の表の通りに課税され、住民税は10%です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円〜329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円〜694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円〜899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円〜1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円〜 | 45% | 479万6,000円 |
参考:退職金にかかる税金とは?所得税・住民税の計算方法、控除額などの基本的な内容を解説|りそなグループ
退職金課税対象が250万円の場合
- 所得税:250万×10% −9万7,500円=15万2,500円
- 住民税:250万×10%=25万円
となるため、最終的な手取りは
- 2,000万円 −(15万2,500円+25万円)=1,959万7,500円
となります。
退職金運用のポイント
退職金を運用する時のポイントは、1,000万〜2,000万円のまとまった資金が一気に手元にくる点にあります。
また、退職まで勤め上げている人であれば、そこそこの貯蓄があり、退職後は年金を受け取りつつその貯蓄に少しずつ手をつけながら生活をしていくという計画の人も多いでしょう。
いきなり退職金に手をつける人は少ないはずです。
そうなってくると、1,000万円を超えるようなまとまった資金である退職金は、すぐに手をつける必要はなく、退職後後期に備えてじっくりと着実に運用することが重要になります。
そして、当然のことながら虎の子である退職金をリスクに晒して運用してはいけません。
1,000万円を3,000万、5,000万と増やすのを目標とするのではなく、10年後に2倍(2,000万円)、20年後に3倍にするくらいを目標に堅実に運用するようにしましょう。
老後に必要な資金は先ほど資産した通り4,500万〜5,000万円程度です。
仮に1,500万円を20年かけてコツコツ3倍=4,500万円に増やすことができれば、少しの貯蓄があれば十分に安心して老後を過ごすことができるようになります。
無理にリスクのある投資をする必要はありません!
堅実にコツコツと備えを積み重ねることが何よりも重要なのです。
!退職金運用のポイント!
- まとまった資金である
- すぐに手をつける必要がない
- リスクが低い
リスクを抑えている
退職金に限らず、あらゆる資産運用において「リスクの管理」は非常に重要です。
特に、ある程度のまとまった資産を運用する場合、大きく増やすよりも、少しでも減らさないように、でもコツコツと少しずつ成果を積み上げていくことが何よりも重要になります。
幸いにも退職金はすぐに手をつける必要がなく、5年10年と中長期的に運用することが求められます。
一般に年5%で運用できれば投資としては大成功のレベルです。
適切な目標をセットし、無理せず着実に運用することを心がけましょう。
まとまった資金の運用に適している
1,000万円を超えるような資金が一気に使える退職金の運用では、その資金力の大きさがメリットにもなりえますし、リスクにもなりえます。
素人が急に「1,000万円を運用しろ!」とお金を渡されてもどうしていいか分からず途方に暮れてしまうのは想像に難くありません。
大きい金額を運用すれば、それだけ利益も損失も大きくなるため精神的にも追い詰められる可能性があります。
1,000万円を運用する場合、数%の値動きで数十万円単位の利益/損失が発生します。
ですが、まとまった資金があることで、限られた人しか手が出せないような投資にもチャレンジすることが可能です。
頭金が必要な不動産投資や、最低金額が高く設定されているヘッジファンドなど、投資の幅が広がるのは大きなチャンスでしょう。
専門的な知識がなくても大丈夫
退退職金で運用を考える人の中には、そこで初めて本格的に投資・資産運用に取り組む人も少なくないでしょう。
元々会社員として勤務しているのと並行して投資をするのは、時間的にも難しいものがあります。
ですが、そんな知識も経験もない投資初心者が、いきなり1,000万円単位の高額運用をするのは簡単ではありません。
特に、より専門的な知識が必要になる株式投資などは、生半可な気持ちで手を出すと大損をするリスクもあります。
老後を支える上で重要な退職金の運用なのですから、ご自身の投資の知識や経験に見合った(=経験や知識がなくても安心して運用できる)投資先を選ぶようにしましょう。
退職金のおすすめ投資先
退職金運用の具体的な投資先について、どんなものがおすすめできるのか考えていきます。
王道の「株」や「投資信託」をはじめ、「不動産」「ヘッジファンド」について見ていきますが、結論から言うと最も退職金の運用に適しているのはヘッジファンドです。
ヘッジファンド
ヘッジファンドが退職金の運用に適しているのは、一般的なヘッジファンドが「まとまった資金を中長期的に安定して運用すること」に長けているからです。
ヘッジファンドとは、投資のプロであるファンドマネージャ(ファンドの運用責任者)に資金を預けて資産運用をお願いするサービスのことです(⬇︎詳しくは以下の記事で解説しています)
元々は資産家や機関投資家と呼ばれるような人たちから資金を調達していたため、ハードルが高い傾向がありますが、退職金でまとまった資金があればそれも問題ないでしょう。
「最低1,000万円から」とされているヘッジファンドが一般的です。
ヘッジファンドは、投資を事業としており、着実な成果を目指す一方で、個人投資家のように2,3年で簡単に成果が出ないようなことも珍しくありません。
投資を事業とする企業として、少なくとも5〜10年の長期スパンで投資することで、より確実なリターンが期待できます。
株式
「投資」と聞いて真っ先に株式投資が思い浮かぶ人もいるでしょう。
株式投資は、投資の王道であり、最もシンプルでフェアな運用方法です。
ですが、それゆえに、極めて専門性が高く、知識や経験、コネクションなどありとあらゆる力を総動員して運用しなければいけません。
また、本気で株式投資で資産運用をする場合、その調査や分析にかかる手間や、売買に費やさなければいけない時間など、今まで以上に忙しい毎日を送る覚悟も必要になります。
株式投資の仕組みはシンプル(買った株価が上がれば儲かる、下がれば損をする)で取っ掛かりやすいかもしれませんが、最も難易度が高い投資とも言えます。
投資信託
株式投資と同様によくおすすめされるのが「投資信託」です。
ですが、この最もメジャーとも言える投資信託こそが、最もおすすめできません。
そもそも投資信託とは、様々な株式にまとめて投資する「パッケージ商品」のようなもので、運用する上で特別有利になるようなメリットはありません。
その上、手数料は高く、全体のパフォーマンスは市場平均を下回るほど悪いものばかりです。
詳しくは以下の記事でも解説しているので割愛しますが、「一般的でみんながやっているから」「少額からはじめやすいから」などといった安易な理由で投資することは絶対におすすめできません。
不動産
不動産投資も投資の方法としてはメジャーなものの一つです。
特に退職金を頭金にして、今まで手が届かなかった不動産オーナーとなり、夢の家賃収入=不労所得を!と考えるひともいるかもしれません。
ですが、不動産投資において「家賃収入で儲かる」というのはあまり本質的ではありません。不動産投資の本質は
- ローンを組むことによるレバレッジを効かせた資産形成
- 団信などの制度による優遇
などであり、家賃収入が大きな収益源となるようなケースは非常に稀です。
不動産投資自体は決して否定できるものではありませんが、老後を過ごす上で退職金を運用するとなると最適ではないでしょう。
さいごに
投資先のポイントをまとめていきます。
おすすめ度 | ポイント | |
ヘッジファンド | ■ 長期で安定した運用に適している ■ 投資の知識や経験が不要 ■ 最低金額のハードルあり |
|
株式投資 | ■ 専門的な知識・経験が必要 ■ シンプルだが奥が深い |
|
投資信託 | ■ 手数料が高い株式投資の下位互換 ■ 全体のパフォーマンスも悪くメリットがほぼ無い |
|
不動産 | ■ 本来は収益確保に適していない(他のメリットがある) ■ 不労所得目的なら不適切 |
いきなり資産運用を始めようと思っても何から手をつけて良いのか分からない人も多いとは思いますが、退職金は、まとまった資金を運用する大きなチャンスです。
インフレに備え、余裕のある老後を過ごすためにも、安心して資金を任せられる投資先を見つけて資産運用することは非常に重要です。
このサイトでは、投資・資産運用に関する様々な情報を発信しているので、ぜひいろいろと参考にしてみてください。